バイオインフォマティクス

生命情報学に関する基本的な理論や解析ソフトウェアの使用方法について.

Gromacs は分子動力学 (MD) シミュレーションのソフトウェアである.世界最速の計算速度を達成するために開発された.フリーソフトであり最近の流行のツールである.マニュアルは基本的に英語で書かれてはいるものの,公式ページが細かなところまで整備が行き届いていることに加えて,ユーザー数も多いため,その分インターネット上に有益な情報も落ちており,初心者も利用しやすいソフトウェアである.

インストール

ルート権限を持っていない場合のインストールは以下のようにする.インストールディレクトリは $HOME/local とする.インストールは公式ページの Installation Instructions に従う.Gromacs 本体を使用するには 離散フーリエ変換を計算するためのライブラリ,fftw が必要である.そこで,最初に fftw をインストールする.インストールディレクトリは $HOME/local とする.まずは fftw の公式ページ (http://www.fftw.org/) にアクセスし,Download をクリック,fftw-x.x.x.tar.gz をダウンロードする.ダウンロードしたファイルを適当なディレクトリ ($HOME/build 等) に移動させ,以下のように解凍する.

$ tar zxvf fftw-3.3.3.tar.gz

次に,$HOME/build/fftw-3.3.3 に移動する.

$ cd fftw-3.3.3

次に以下のコマンドを打つことでコンフィグする.--prefix でインストールディレクトリを指定する.--enable-float は浮動小数点数用ライブラリを作成するため.--enable-sse はSSE付きのプロセッサの高速化のため.--enable-shared はシェアライブラリ作成のために指定する.

$ ./configure --prefix=$HOME/local --enable-float --enable-sse --enable-shared

以上の操作が終わったらディレクトリは移動せずに make および make install を打つ.この操作には少々時間がかかる.

$ make
$ make install

もし make でエラーが出るなら,以下のように make distclean を行い,コンフィグをやり直す.configure -h でコンフィグのオプションを確認できるので,必要なものを加える.最後にインストールした fftw を gromacs のビルド時にが参照できるように (bashを使っている場合は) 以下の2つのコマンドを打つ.行中の黄色い文字には fftw をインストールしたパスを指定する.

$ export CPPFLAGS="-I$HOME/local/include"
$ export LDFLAGS="-L$HOME/local/lib"

次に,gromacs 本体のインストールを行う.まず,gromacs公式ページ (http://www.gromacs.org/Downloads) から gromacs-4.5.6.tar.gz をダウンロードする.ダウンロードしたファイルは $HOME/build に移動させ,以下のように解凍する.

tar zxvf gromacs-4.5.6.tar.gz

次に,$HOME/build/gromacs-4.5.6 に移動する.

cd gromacs-4.5.6

引き続きコンフィグを行う.以下のコマンドを打つ.--prefix でインストールディレクトリを指定する.--without-x はクラスター等の画面なしの計算機を用いるときに指定する.公式のインストールインストラクションページにもあるように,X を有さないクラスター等を使用して計算を行う場合はこのオプションを指定するが,実際に X が必要となるソフトウェアは ngmx というトラジェクトリーから画像を生成し簡単なアニメを確認する程度のものなので多くの場合は X を利用する必要ない.VMD を使用したほうが圧倒的に多くの情報を得られる上に綺麗である.また,gromacs は自動で fftw3 を認識するので --with-fft=fftw3 を加える必要はない.LDFLAGS および CPFLAGS に関しても上で環境に追加したので加える必要はない.Gromacs はバージョン4.5以上ではデフォルトで使用すると使用できる最大限のCPUを利用する設定になっているので (使用の際のオプションでCPU数は指定可能) それに関するオプションも必要ない.

./configure --prefix=$HOME/software/gromacs --without-x

最後に以下のコマンドを打つことでインストールは完了する.この操作は少々時間がかかる.

$ make
$ make install

$HOME/local/share/gromacs/tutor にチュートリアルがあるので動かしてみると大体の使い方が掴める.デモは csh 用で bash では起動しないので csh を起動させる.

tcsh

使い方概要

さらに,Gromacs において水中におけるペプチドの MD シミュレーションを行うには以下のような手順を踏む.シミュレーションの手順は以下の18ステップから構成される.大きく分けると,エネルギー極小化のステップ,系の平衡化のステップ,最終的なプロダクション MD の3ステップからなる.シミュレーションの開始に当たり必要なファイルはペプチドの pdb ファイルのみである.

1. pdb2gmx による初期構造,トポロジーの作成および使用する力場と水分子モデルの指定

このステップでは対象の初期構造ファイル .pdb から gromacs が利用する初期構造ファイル .gro およびシミュレーションに用いる分子の詳細な情報が格納されるトポロジーファイル .top を作成する.位置拘束 MD,すなわち平衡化のために必要な位置拘束ファイル .itp も作られる.また,用いる力場と用いる水分子モデルを指定する.シミュレーションの全てのステップで最も重要なステップである.

2. editconf によるシミュレーション空間の作成

シミュレーションを行う空間,シミュレーションボックスを構築しその構造ファイル .gro を作成する.

3. genbox によるシミュレーション空間への分子の充填

上で作成したシミュレーションボックスに指定した水分子 (c.f. tip3p) を充填付加する.水分子が追加された新たな構造ファイル .gro とトポロジーファイル .top が得られる.

4. イオン付加のための .mdp の作成

系全体を中性化するためのカウンターイオン付加のために必要なバイナリトポロジーファイル .tpr を作成するために必要な MD パラメーターファイル .mdp を作成する.Gromacs 付属のコマンドではなく,任意のテキストエディターを用いる.

5. grompp による .tpr の作成

上で作成した,.mdp,gro および .top を入力としてカウンターイオン付加のために必要なバイナリトポロジーファイル .tpr を作成する.

6. genion によるイオンの付加

上で作成した .tpr を入力として,系全体を中性化するためのカウンターイオンを付加する.イオンが追加された構造ファイル .gro およびトポロジーファイル .top が得られる.

7. エネルギー極小化のための .mdp の作成

MD パラメーターファイル .mdp に,エネルギー極小化 MD を行うために必要な条件を設定する.

8. grompp による .tpr の作成

これまでに作成した構造ファイル .gro,トポロジーファイル .top および MD パラメーターファイル .mdp を入力に,エネルギー極小化MDの実行に必要な唯一のファイル .tpr を作成する.

9. mdrun によるエネルギー極小化の実行

上で作成した .tpr を入力にエネルギー極小化 MD を実行する.結果として,系のエネルギーが極小化された構造ファイル .gro が得られる.

10. 定温・定容下における平衡化のための .mdp の作成

ペプチドの位置を固定して,水分子等のそれ以外の分子を動かすことで系の平衡化を行う.定温・定容下 (NVT) にて行う.そのための平行化MDに必要なMDパラメーターファイル .mdp を作成する.

11. grompp による .tpr の作成

エネルギー極小化 MD にて得られた構造ファイル .gro,トポロジーファイル (ステップ6で得られたもの) .top および上で作成した MD パラメーターファイル .mdp を入力に,NVT 平衡化 MD の実行に必要な唯一のファイル .tpr を作成する.

12. mdrun による定温・定容下における平衡化の実行

上で作成した .tpr を入力に NVT 平衡化 MD を実行する.結果として,定温・定容下にて平衡化された構造ファイル .gro が得られる.

13. 定温・定圧下における平衡化のための .mdp の作成

定温・定圧下 (NPT) にて系を平衡化する平衡化 MD の実行に必要な MD パラメーターファイル .mdp を作成する.

14. grompp による .tpr の作成

NVT 平衡化 MD にて得られた構造ファイル .gro,トポロジーファイル (ステップ6で得られたもの) .top および上で作成した MD パラメーターファイル .mdp を入力に,NPT 平衡化 MD の実行に必要な唯一のファイル .tpr を作成する.

15. mdrun による定温・定圧下における平衡化の実行

上で作成した .tpr を入力に NPT 平衡化 MD を実行する.結果として,定温・定圧下にて平衡化された構造ファイル .gro が得られる.

16. プロダクト MD のための .mdp の作成

プロダクト MD を行うための条件を記述した MD パラメーターファイル .mdp を作成する.

17. grompp による .tpr の作成

NPT 平衡化 MD にて得られた構造ファイル .gro,トポロジーファイル (ステップ6で得られたもの) .top および上で作成した MD パラメーターファイル .mdp を入力に,MD の実行に必要な唯一のファイル .tpr を作成する.

18. mdrun によるプロダクトMDの実行

上で作成した .tpr を入力にプロダクト MD を実行する.結果として,MD シミュレーションの情報が格納されたファイル,トラジェクトリーファイル .xtc が得られる.

動画の生成

このように得たトラジェクトリーから VMD を用いて動画を生成することができる.VMD (Visual Molecular Dynamics) はMD 計算によって得られたトラジェクトリーファイルから動画を生成するためのソフトウェアである.Gromacs による MD 計算にて得られる .trr や .xtc ファイルから動画を作成できるが,Gromacs 以外のソフトウェアを用いて得られたトラジェクトリーファイルからも動画を生成させることができる.インストールは以下のように行う.まず,公式ウェブサイトに進む.さらに,Software → VMD → Download と進みダウンロードページに到達するが,ここで自身の OS に合ったインストーラーを取得する.OpenGL 版と OpenGL+CUDA 版が存在する.

次に,VMD を利用して動画を生成する.まず,VMD Main → File → New Molecule... と進む.

ato_gromacs_basic_usage_01.jpg

以上の操作で出てくる Molecule File Browser にて Browse... をクリックし,MD 計算のインプットの構造ファイル (.gro) を呼び出す.さらに,Load をクリックすることでその構造ファイルを読み込む.

ato_gromacs_basic_usage_02.jpg

以下のように読み込んだ構造ファイルが表示される.

ato_gromacs_basic_usage_03.jpg

次に,Molecule File Browser にて上と同様にトラジェクトリーファイル (.trrまたは.xtc) を読み込む.

ato_gromacs_basic_usage_04.jpg

以上の操作にて動画の生成が完了する.

ato_gromacs_basic_usage_05.jpg

また,以上のように VMD Main に表示される動画のコンソールにて Step 数や再生速度,タンパク質のリボン表示や二次構造別色分け等のオプションを設定することができる.

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