天然変性構造

タンパク質の構造中には、ヘリックスやシート等の確固たる安定構造を形成する部位に加えて、安定な構造を形成しない部位が存在する。これは単なるランダムコイル構造のことではなくて、変性したランダムコイルに似た状態を持つ独特な領域のことである。このようなタンパク質の領域を天然変性領域 (intrinsically disordered region, Intrinsically unstructured proteins, naturally unfolded proteins ) とかディスオーダー領域と呼ぶ。タンパク質構造の大部分が天然変性領域であるものを特に、天然変性タンパク質とかディスオーダータンパク質と呼び、IDP (intrinsically disordered protein) と表す。

全てのタンパク質が天然変性領域を有するわけではない。例えば、生物種やタンパク質ファミリーの違いによってもその存在率は変わる。天然変性タンパク質は原核生物よりも真核生物のタンパク質に多く存在する。また、転写に関するタンパク質やシグナル伝達に関わるタンパク質に多く含まれることが知られている。天然変性領域を構成するアミノ酸配列の特徴としては、その配列中には疎水性残基の含有量が少なく、極性残基・荷電残基が多く含まれる点が挙げられる。すなわち、疎水性残基が少ないがために疎水性コアが形成せず、安定な球状構造を形成できないのである。以上のような特徴を持つ天然変性領域であるが、その構造がディスオーダーであるか否かは、実験的にはNMRによって決定されることが多い。また、X線構造解析における電子密度の欠損部位をディスオーダー領域として定義する場合もある。

ディスオーダー領域の生物学的な存在意義については未だ完全には理解されておらず、諸説ある。ひとつには、その部位にて他の種々多様なタンパク質と結合するために必要なコンフォーメーションを容易に形成できるようにディスオーダーな構造を保っているというものである。ディスオーダーであることの有利な点としては、ディスオーダーであることによって反応半径を増せる点、ターゲット分子の入り組んだ構造に容易にアクセスできる点が挙げられる。このような機構においては、ディスオーダー領域はターゲット分子と相互作用することではじめて特定の立体構造を形成すると考えられている。この結合と折り畳みの共起を、"coupled folding and binding"という。とはいうものの、天然変性タンパク質および領域の実態は未だに明らかにされていないところが多く、以上の記述が全て正しいとは断言できない。更なる研究が必要である。

計算機的に天然変性領域を予測するソフトウェア (サーバー) としては以下の2つが有名である。

SoftwareDescription
IUPredハンガリー科学アカデミーが提供する、対象のアミノ酸残基間の相互作用エネルギー計算に基づいたディスオーダー予測器。偽陽性が少ない。
DISOPRED2UCLが提供する、PSIPREDに組み込まれているディスオーダー予測器。ニューラルネットワークを利用。偽陽性が少ない。
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